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演奏会を終えて

今日は東大ピアノの会の八月演奏会(1日目)があった。その反省と感想です(個人の演奏に対する言及はありません)

尻の骨が痛くなるので2時間と座って聴いていられない私にしては珍しく、一部を除きほぼ全てのプログラムを聴いた。そのかいあってか、いろいろとピアノの演奏について思うことがあったので忘れないうちに書いておく。

ピアノの会の会員は十人十色の弾き方、個性を持っているので、それらを比較しながら鑑賞すると、プロのコンサートやコンクールの見学では得ることのできない示唆があった。

本日のピアノはベーゼンドルファーのインペリアルであり、非常にくせのある楽器だったので一部からは不評のようだった。(ピアノの先生も、インペリアル290は大きすぎてバランスの悪い楽器なので270か200が一番良く鳴るし音もいいと言っていた。)

しかし、楽器の良さを引き出して豊かな音を鳴らせている人はやはり一定数はいたので、普段どれだけきめの細かい音作りができているかが問われたのだろう。これは楽器が「合う」「合わない」を超えた問題意識を含んでいると思う。人によってアプローチの仕方は違うものの、明らかに楽器が奏者をはねのけているような印象を持たせる演奏というのはある。よい楽器は、われわれにどのように近づいてほしいのか、必死でメッセージを発しているのであり、それを汲み取ってやらないといけない。6つ思ったことがあるのでとりあえず羅列する

 

・1つめ 

音が命。いかに音楽的に弾いていようが、音の悪い演奏というのはその価値を半減させるし、聴く気になれない(主観)。よい悪いは人それぞれかもしれないが、音のよさ悪さに対して気配りのない演奏はすぐにわかる(音が変わらないから。)演奏の出だしで音がいまいちでも、途中で気づいて変えている。その対応力は普段の練習で感受性を発揮することの積み重ねが生み出す。

あと良いホール、良い楽器を使うと少しの違いが音響効果としては大きな差をつけるのであり、そこに敏感になれない限り一生ピアノは上手くなれないはず。どういう音にするのか、そのためにはどういう習慣をつければよいのかを考える。また、適切な音を作ってタッチに乗せることができない(余裕のない)曲は選択しない勇気が必要。残響の多いホールでは、全ての音を的確に打鍵できているか以上に、それらの質が均一化しないことが何より大事で、まだら模様にしか聞こえない。

均一な質の演奏は聴くものをはじめは安心させはするものの、つまらない。

 

・2つめ

音と音の間を考える。打鍵は通過点。

音に薫る風を吹かせるということは私の毎回の演奏の目標であり、いまだに達成できない理想だ。ピアノが減衰楽器であることを最大限に考慮し、その欠陥をマスキングする技術を習得せねばこの目標は達成しない。

打鍵が終わったらつねに次の打鍵のことしか考えていない、意識が次の音にまでワープしてしまう演奏はとても残念だ。実際に出てくる音も階段状になっていて、レガートとは言い難いものである。連続的に意識を移行させる練習、身体を突発的に使わない練習、ゆっくりと、じんわりと動く練習を徹底したいものだ。

少し先のメロディーまでを視野に入れながら演奏を進めること。

鍵盤に対して指や腕を突き立てるように弾くことを禁じ、つねに上体のどこかに緩衝材となる力の逃げ道をつくりながら弾くこと。

 

・3つめ

意識の中心を動かさない。弾いている時に身体を振り回したり首を前に出したりすることで、統御の中心がばらばらになる感覚を得る。自然な上体の動きは歓迎されるものの、できるだけ身体と意識の核?が一致するようにすべし。

自分が楽器に対して体を持って行かれたりすることのないように。(姿勢が前のめりになるのは音楽に没入することと楽器に没入することとの区別が付いていないから。)楽器の音を吸収するのが自分で、自分という核から次の音に対して指令を出すことで反応を返す。

 

・4つめ

指先の感覚。指先の感覚がしっかりしていないから、ほかの部分に力を入れて制御をしようとする←ホウキを振り回しているのと同じこと。

肩、肘の関節を柔らかく保つ(たとえ柔らかく保たなくても弾ききれてしまうので怖い。弾ければいいってもんじゃなく、よりよいフォームを考えるべき)

鍵盤に対してはonとoffだけがあるのではなく、鍵盤を押し下げて発音に至るまでのスピードをコントロールすべき。「弾く」という段になってボタンを押すかのようにonにするだけでは二色刷りの版画のような音楽にしかならない。

 

・5つめ

ホールの響きを考えながら練習する。ホールでの印象を決定する8割は発音の瞬間ではなくて発音の一撃から広がる響きである。白い和紙に水彩絵の具をポタっと落とすような気持ちで、どのような模様が広がっていくのか想像すること。また、残響やペダルの中でほかの音とどのように混ぜ合わせるかを考える(混ざり合わない演奏であればピアノを使う必要はない)。

 

・6つめ

選曲をしっかりする。1~5で述べたことを実現するためにあらゆる環境を整えるのは並大抵のことではなく、その場合実現できそうなレベルにまで曲を落とすことも必要。自分の音に対する解像度を正しく把握すること。全ての音が鳴らせるようになりそうか、ではなく、全ての音に対して意味付けをし、内面化するまでの余裕があるかを指標とするべし。